大地性と火の意識 ノヴァーリス・コンプレックスから


さて、別のところで、
鈴木大拙の「大地性」について、
少し触れました。
 
「大地性」は、
私たちの存在の受け皿となり、
私たちを根づかせ、
受肉させ、
より実在化・実体化させる、
貴重な要素(媒体)となるものです。
 
それなくては、
存在の深化が起こらない、
ある意味、
存在の成就が起こらない、
大切な要素といえるものです。
 
ここでは、
この大地性について、
別の象徴的な角度から見て、
私たちの存在への姿勢を深化させる、
要素について、
考えてみたいと思います。
 
さて、フランスの哲学者、
G・バシュラールの概念に、
「物質的想像力」
というものがあります。
 
彼は、私たちの想像力には、
その基盤となるような、
存在的な基底があると考えました。
そして、彼は、その傾向性を、
作家の想像的世界のタイプから、
ギリシャの四大元素に分類しました。
火、風、水、大地です。
 
さて、そんな著作群の中に、
「大地性」と「火」との、
不思議な結びつきについて、
触れている部分があります。
 
『火の精神分析』(せりか書房)で扱われる、
ノヴァーリス・コンプレックスです。
 
ノヴァーリス・コンプレックスとは、
バシュラールが、
ドイツ・ロマン派の詩人、
ノヴァーリスの作品の中に見出した、
大地と火に関する、
ある関係性です。
 
バシュラールは、
ノヴァーリスの作品の中に現れる、
鉱物的なイメージや、
それにまつわる〈熱〉の性質のあり様を追いつつ、
大地と火の交わりにおける、
摩擦、熱、性愛(愛)、
原初の火の直観、
幸福の始原などの、
重要なテーマを見出していきます。
そして、
「青い花」とは、
実は、
赤いのであるとしたのです。
 
バシュラールは、
ノヴァーリス自身の言葉を引きます。
「あなたは、
わたしの物語の中に、
光と影の戯れに対するわたしの反感と、
明澄で熱くしかも
滲透的なエーテルに対する希求とを、
みてとることができましょう」と。
(『火の精神分析』前田耕作訳/せりか書房)
 
さて、そのような、
ノヴァーリス・コンプレックスの中に、
当スペースでは、
独特な見者であるノヴァーリスの、
大地(肉体)への下降と、
意識(透視力)の拡張、
そのふたつを統合する、
再生(生成)のヴィジョンを、
見ていきます。
 
それは、ノヴァーリス自身が、
許婚の死や、
夜の彷徨の体験の果てに
深化させていった、
ヴィジョンと思われるのです。
 
そして、鉱物の胎内的な大地や、
摩擦、熱、火というイメージ群、
また、バシュラールの指摘する、
ノヴァーリスの詩的性格、
「そのポエジーとは、
『原初性』を追体験する努力である」(前掲書)
などと考えあわせると、

不思議にも、そこには、どこか、
S・グロフ博士の唱える、
分娩前後マトリックス(BPM)Ⅲのイメージを、
思い出させる要素もあるのです。
 
別に、ブリージング・セラピーの項で紹介したように、
グロフ博士の、分娩前後マトリックスとは、
私たちの心の奥に潜む、
出生の時の記憶です。
そして、
「分娩前後マトリックス(BPM)Ⅲ」とは、
胎児が産道を通って、
彼方に脱出(生誕)しようという状況であり、
「火山的エクスタシィ」が体験されるともいう、
熾烈な状態なのです。
 
そして、BPMⅢにおいては、
死の意識と闘争性とが、
猛烈に混淆する状態であり、
ある種の覚醒感、
どこかに、
「明澄で熱くしかも滲透的なエーテルに対する希求」
を持つものでもあるのです。
 
このような文脈で、
ノヴァーリスの言葉を読むと、
その背後には、
大地と火、物質と精神性を結ぶ、
古代的な感覚を、
見出すこともできるのです。

ユングのグノーシス的なテクスト、
『死者への七つの語らい』における、
原初の神性プレローマと創造的なクレアツールとの、
結合をどこか思い出させたりもするのです。
 
そこにおいては、
透明に浸透する、姿なきプレローマは、
物質的なクレアツールの中でこそ、
受肉し、個となり、
存在を、成就することができるからです。
 
そして、
このような類型的連想を広げる中で、
分娩前後マトリックスについて戻ると、
グロフ博士は、
その元型な内的体験の世界を、
はからずも表現してる、
特異な画家として、H・R・ギーガーについて、
よく言及しています。
 
BPMⅢ的な側面だけを取り上げても、
ギーガーの絵画には、
ノヴァーリス・コンプレックスにみられる、
硬質性、胎内性、エロス、熱狂、火、恍惚が、
数多く描かれています。

しかし、それでいながら、
その絵の奥には、
「明澄で熱くしかも
滲透的なエーテルに対する希求」のヴィジョンが、
感じ取られたりもするのです。
 
そのようにして見ると、
一般的には、
一見「天使的な」ノヴァーリスと、
通俗的には、
一見「悪魔的な」ギーガーとが、
大地(胎内)への下降と、
始原の火の意識(目覚め)において、
似た要素を持つ者であることも、
感じられて来るのです。
 
そして、このことは、
シャーマニズム的な視点からも、
また、当スペースの唱える、
夢見(エクスタシィ)の技法に関係しても、
さまざまなヒントを、
投げかけてくれるものとなっているのです。

 

※変性意識状態(ASC)を含んだ

当スペースの統合的なアプローチについては、

拙著『砂絵Ⅰ 現代的エクスタシィの技法』

をご覧下さい。

 

 

 

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