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さて、
ゲシュタルト療法のワーク、
実践経験を積んでいくと、
ある奇妙な事柄を
理解(実感)していきます。
ゲシュタルト療法の技法では、
有名なエンプティ・チェア(空の椅子)の技法というものがあります。
さまざまな使用場面がありますが、
代表的な使い方に、
セッション(ワーク)の中で、
クライアントの中から出てきた(見出した)、
複数の感情や思考を、
それぞれ切り分け、取り出して、
それぞれの、エンプティ・チェア(空の椅子)に、
置いていくというものがあります。
そして、
クライアントに、
実際に、その各椅子に座ってもらい、
それぞれの感情そのものに、
成りきってもらいもらい、
それを表現してもらうものです。
さて、
筆者も最初、
実際にそれらを経験をしてみるまでは、
はたで見ていて、
そんなことをやって、
本当に効果があるのかと疑問に思いましたが、
実際にやってみると、
驚いたことに、
それぞれの空の椅子に座るごとに、
それぞれの、
「生きた感情・感覚・意欲・記憶の有機的なセット」、
つまりは、
「自我状態 ego stateそのもの」が、
自分の内側から忽然と、
出現してくるのでした。
そのような、実体験を、
数多く繰り返して、理解(痛感)できたのは、
私たちの自我とは、
「複数の存在である」
という事実でした。
私たちの自我の単一性とは、
意識面での表象機能であり、
その内実をつくる、
「自我そのもの」は、
その下方で、
次々と、入れ替わっているということでした。
精神分析や交流分析(TA)などでも、
心の機能の分化や、
自我状態 ego stateといって、
私たちの内部にある自我状態を区別しますが、
これは、単なる機能ではなく、
本当に、そのような自我状態が、
「人格的として」存在し、
生きられている、
ということなのでした。
そしてまた、実際のところ、
この複数の自我は、
三つ(三区分)に留まるものではなく、
さまざまな状況や経緯により、
数限りない自我を創り出している、
ということなのでした。
つまり、心は、
「グループ活動」
をしている存在であるのです。
………………………………
さて実は、
私たちは、日常生活でも、
普段からこの事態に遭遇しています。
ある時、何かを決断して、
「これからは、絶対○○をやるぞ!」
「もう、こんな○○は絶対にしない!」
などと、あれほど強く決断したのに、
翌日には、ケロッと忘れてしまいます。
しかし、
それは、忘れたのではなく、
違う自我(私)だから、
自分の経験(決意)ではないのです。
記憶はあっても、
その自我にとっては、
自分の経験ではないため、
感情的な動機づけがないのです。
上に図にしましたが、
「自我A」があることを、強く決めても、
いざ実行するときは、
別の「自我C」になっており、
なんとも、気持ちが乗らないということに
なっているというのは、
よくあることです。
図にあるように、
「自我は複数」の存在です。
「意識」が、都度都度、
各自我に同一化することで、
「私」の、
見せかけの同一性や連続性が、
保たれているのです。
そして、「自我」とは、
一般のイメージと違って、
必ずしも「意識」ではなく、
大部分が、
「無意識」の領域にある、
ということです。
「意識」に同一化されて、
各自我は、
はじめて「私」となりますが、
大部分を無意識の状態として、
棲息しているということです。
ゲシュタルト療法では、
法的には、
エンプティ・チェア(空の椅子)の技法などを使い、
無意識にある各自我を、
意識の下に取り出し、
自我間の対話や、
情報の交流を促していきます。
そのことにより、
各自我間の葛藤や分裂を、
統合していくこととなります。
そのことを通して、
私たちは、より力強い主体性や、
大きな「自己の全体性」というものを、
感覚的につかんでいくこととなるのです。
そして、
その「自己の全体性」の中には、
今まで自分が想定していなかったような、
高次の自己も、
含まれていることに、
気づいていくようにもなるのです。
(※1)
ちなみに、原理面を、
補足説明しますと、
エンプティ・チェアの技法で、
それぞれの椅子に座ることによって、
それぞれの自我状態が、出現してくるというのは、
各椅子と、各自我状態との間に、
催眠療法でいう、
「アンカリング」が施されていて、
ヒモづけられているためです。
(→「用語集」)
(※2)
「複数の自我」という用語は、
当スペースが便宜的に使っている言葉で、
ゲシュタルト療法の、
教科書的用語ではないので、
その点、ご留意ください。
※ゲシュタルト療法については、
基礎から実践までをまとめた総合的解説、
をご覧下さい。
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